「お前、ハートの笑ってる以外の顔を見たことあるか?」
ふと、シルバー先輩に言われたことだった。
俺は動かしていた手を止め、シルバー先輩を凝視した。
今はなんでか知らないがシルバー先輩と一緒に課題なんてものをやっている。
何故か、と問われたら、こう答えるしかない。
成り行きだ。
今日サボったことが先生にばれて、明日までにやるようにプリントを5枚ほど渡された。
正直言ってめんどくさかったが、やらないのもなんか悪いと思い、仕方なくやることにした。
部屋でやるとハートにからかわれるし、教室は他の生徒の目に付く。
とすれば、ほとんど利用者が来ない図書館ぐらいしかやるところが思いつかない。
そう思い、俺は図書館にいった。
そしたら先客者が居て、今の状況に至る。
まあ勿論、先客者というのはシルバー先輩のことだ。
「・・・笑った顔以外、ですか?」
「そうだ」
自分で聞いておきながら全くこちらは見ようとしないんだからこの人は凄いと思う。
普通質問をするなら相手の顔をみるのが基本ではないだろうか?
いつだったかハートがそんなようなことを言っていた気がする。
俺はそれにどう返したんだっけ?
・・・・・ああ、そうだ、お前だって人の顔見ないだろ。
そう返したんだ。
そしたらハートは笑ってそうだな、って言って。
今度からは気をつけるよ、と、俺の顔を見て微笑んだんだ。
「・・・・・・・よく思い出せませんけど、確かにハートと言われたら、笑顔がまず思い浮かびますね」
「そうか」
それ以上は続かない会話。
あまり俺も話すのは好きじゃないから苦にはならないけど、なんとなくやな感じ。
こういうときハートだったら、かならず話のネタを振って来るんだろうけど。
相手がシルバー先輩じゃそうはいかない。
さて、やっぱりこういうときは後輩の俺が頑張るものなのか。
「・・・シルバー先輩は逆に笑った顔を見たこと無いですね」
「そうか?」
そういえば短く返される返事。
どうやらこの人には会話を続けようという気が無いらしい。
俺が言ったことには全部三文字で返してる気がするし、まっ、気にはしないけど。
「・・・・・・笑うって、嬉しいときや楽しいときにするものですよね?」
会話を続ける気が無いなら、せめてこちらの話だけでも聞いてもらおうと、勝手に話始める。
案の定シルバー先輩は何も言わず、黙ってプリントをやっていた。
それでも一応耳は傾けてくれているのだろうと、俺はなんとなくそう思った。
ハートも聞いてないようでしっかりと聞いていてくれたことがあったから。
「でもハートは嬉しいときや楽しいときに笑って無い気がするんですよ、・・・いえ、笑ってないという
よりは、楽しいと思うことが無いといったほうが正常でしょうか。なんとなく俺はそう思うんです。ハー
トは、確かに俺が一番長くそばにいるし、誰よりも親しいとも思いますけど、それでも、それでもハー
トは笑ってないんです。いつもニコニコしてて、表面上は笑っているようにみえる、けど、実際は笑っ
てなんかいない。心のそこから笑ったことなんて無い。いつも自分の裏を隠して、ニコニコニコニコと、
笑顔を造って、最後には泣きたいときも笑って、必死に偽っているんです。俺だって見たこと無いです
よ、あいつの涙は・・・・。でも、同時に笑った顔も見たことないんです。矛盾してますよね?ほんと、笑
っちゃうよ・・・。俺はあいつの、一体なんだというんだろう・・・」
机に顔をつける。
ほんの少し泣きそうになってしまったからだ。
見ていないと分かっていても、やっぱり恥ずかしい。
人に涙を見られることは、心許したひとじゃないとなかなか出来ないからだ。
俺にとってハートはそんな存在。
でもハート自身は?
ハート自身はどうなんだろうか。
机に響いていたシャープペンシルの音が止まる。
何故かと思い顔を上げたら、頭を撫でられた。
もちろん、撫でているのはシルバー先輩。
普段なかなか見ることが出来ない姿なので、おもわず見入ってしまうけど、不意に涙が零れた。
優しく撫でるこの手は、まるでハートのようだと思った。
ああ、どうして、どうしてあいつは笑わないのだろう。
「・・・・ハートには、確かに笑顔のレパートリーしかないかもしれない、でも、それならその笑顔から
表情を見つけ出せばいい。生憎俺にはわからないがな」
優しくそういうシルバー先輩。
顔は無表情のままだけど、それがこの人なりの優しさなのだと思った。
ああ、そっか、確かにハートは笑顔以外見せないけれど、俺にはそれが本当の笑顔じゃないと分かる。
俺はいつハートが泣きそうなのか、どんなことを喜ぶのか、しっている。
けっして笑いはしないハート、泣きもしないハート、でも、ハートはハートなりに俺に笑いかけてくれて
る、涙を見せてくれてる。
表情には表さないものの、不器用な君は必死に伝えようとしてくれてる
きっとそれが、裏表のない、君の表情。
『裏表のない』
(きっと見つけてみせるから)
END