『作文に書いた将来の夢』
「・・・・・ハート、これはなんだ?」
休日のよく晴れた日、俺達はせっかくのいい天気なので部屋の掃除をすることにした。
最初は別々にやっていたがどうもはかどらず、一緒に同じ場所をやることになった。
そして、これはそんな最中に見つけた物だ。
俺の後ろで本棚の整理をしていたハートに声をかければ、「ああ、それ・・・」と、興味なさそうな返事が返ってくる。
これはハートの机から見つけたものなのに、興味なさそうなのはなぜだろうか。
まあ、そんなことを考えるだけ無駄なのだろうけど。
「それは俺が昔書いた作文だよ。くだらない餓鬼の妄想の産物だ」
振り返りもせず、手も止めず、ハートは淡々と答えた。
本当に興味がなさそうだ。
まるで今思い出したような口ぶり。
自分の子供のころには全く興味が無いというのだろうか・・
「・・・・・・・・見てもいいか?」
ぱらぱらと作文をめくれば、ふと目に入った言葉。
『将来の夢』
なんだかその言葉に酷く打ちのめされてしまった。
ハートでも、こんなものを書く時代があったんだな。
「別にいいけど・・・、なんで?」
やっとこちらを向き、俺の手元にある作文を見る。
なんで・・・か。
そういわれると困るな、特に理由はなかったから。
まあしいて言うなら、ハートの憧れた職業に興味があるからかな。
「特に理由は無い。でも、気になった」
「ふ〜ん・・・・・・・」
ハートはそういうと、また後ろを向き、本棚の整理に取り掛かる。
たとえ自分の作文が読まれていようが読まれてなかろうが、興味の無いことにはとことん関心を示さない。
ハートはそういう奴だった。
俺もそれは十分に理解しているので、たいして気にしもぜず作文を読み始めた。
え〜と何々?
『将来の夢』
僕の将来の夢は幸せになることです。
素敵な友達をつくって、いっぱいお話をします。
そして最後には幸せ、と、お互いにいえる関係になっているといいです。
これで終わります。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
随分と簡潔な作文だと思った。
文章も少ないし、書かれている事だってそれほど珍しいことじゃない。
本当にこれをあのハートが書いたのか?
あの完全無欠なハートが
どうもひっかかる。
「なんて書いてあった?昔の俺。どうせ短いだろ?パイロットになりたい、とか」
不意に後ろから声をかけられる。
勿論犯人はハートなのだけれど。
俺は何故かそれに驚いてしまった。
急だったからかもしれないが、体がいつも以上にびくっとはねた。
「聞いてるか?ソウル」
「あっ、ああ、聞いてるよ」
変わらずこちらを見ようとしないハート。
俺はそんなハートの背中をじっと見つめる。
どうやら今の行動は見られなかったようだ。
ほっと安易の息を吐き、後ろから近づく。
ハートは一瞬だけこちらに視線を向けたが、また目の前の本棚に集中してしまう。
ああ、どうももどかしい。
「幸せになりたい。そう書いてあったよ」
作文のままの文章を伝えれば、ぴたっと整理している手が止まった。
そのまましばらく停止していたが、くるっこちらを振り返ると、
「そんな事かいてあったのか?本当に?」
不可解そうなめでそうたずねてきた。
「実際は幸せになること、だったけど」
そっちの方が分かりやすいと思って。
そういえばハートはそうか・・・・、と納得したように、また本棚と向き合う。
その横顔はどことなく泣きそうに見えた。
「・・・・・・・ひょっとして、今も・・・」
「あー!やめやめ!そんな昔の作文の話!大事なのは今、だろ?」
わざとらしく大声をだし、にっと笑うハート。
その瞳が濡れているように見えるのは、きっと俺だけ、なんだろうな。
「・・・・・・・・そうだな。今が幸せならそれでいい」
きっぱりとハートの顔を見つめながら言えば、何故か顔を赤くするハート。
あーとか、うーとか、この天然め・・・・とか、色々と呟いているようだ。
「・・・・・・・・・まあ、結局はそうだよな!俺、ソウルのそばにいれて幸せだよ?」
にっこりと笑い、俺に手を伸ばすハート。
俺はほんの少し戸惑った。
この手をとっていいものか、と。
だって・・・・・・・・
「ああ、俺も」
そういって笑う君も、やっぱり泣きそうだったから。
(作文に書いた将来の夢、きっとそれは今も・・・)
END