いつからだっただろうか。
俺が彼を縛り付けているんではないかと感じたのは。
いつからだっただろうか。
笑いかけてくれる彼を見て、どうしようもなく悲しくなったのは。
ほんと、いつからだっただろうか。
『真夜中の虹』
「オッス、元気か?」
病室の扉が開き、今日も彼がやってくる。
ベッドで寝ている俺に近づき、今日はいい天気だったと言った。
がさがさとビニール袋からジュースを取り出し、俺に放り投げる。
ジュースはとんっと体にあたり、ふとんに落ちた。
「なんだよ、ちゃんと受け取れよ」
ジュースを拾い上げ、今度は手渡し。
その際触れた彼の手は、とても温かかった。
ぎゅっと缶を握り締め、下を向く。
きっと気づきはしない。
こうして会うだけで、俺の心が痛みつけられているなんて。
彼は気づきはしない。
気づかなくていい。
気づかないで。
「あーあ、こんな暑い日には、プールにでも行きたいな〜」
カーテンの間から微かに差し込む光を見ながら彼はそういった。
焦点が合わない目は、何を考えているか分からず、ただ光を見つめていた。
しばらくして立ち上がり、完全に光が入らないようにカーテンを閉め切った。
好き好んでやったわけじゃないことなど、知っている。
全ては俺のため。
光の下に出られない俺をおもってやったことなのだ。
ふいにまた、涙がこぼれそうになった。
「まあ、夏じゃなくてもいけるよな!ほら、温水プールとかよ。なんなら俺が造ってもいいし。うん、そうしよう」
楽しそうに、絶対に来るはずの無い未来の話をする。
口にこそは出さないが、俺を退屈させないように、そして未来を与えるように、彼はいつも話をする。
言葉を選び、希望があると、知らず知らずのうちに手を引くのだ。
だけど、この体が長くないことなんて、俺が一番知っている。
どんなにみんなが隠そうと、その優しさが逆に裏付ける。
病気のことをうらむつもりはない、ましてや、心配してくれるみんなをうざいなんておもうことは絶対に無い。
ただ、どうしようもなく泣きたくなるのだ。
心配してくれるみんなの、期待にこたえられないことを。
自然に笑えなくなったことを。
そして、縛り付けてしまっていることを。
今の俺に出来ることなんて何も無く、ひたすら笑う練習をする。
大丈夫だと伝えるために。
もういいと伝えるために。
だから、どうか俺から離れてください。
たとえそれを俺が一番望んでいないとしても。
「・・・・・やっぱ、駄目かな。悪いな。騒いで」
すとんと腰を降ろす彼。
ずきっと心が痛んだことなど、いつものこと。
俺はもうそうだなと、笑い返すことさえ出来ない。
この命が短いことをしっているから。
嬉しそうに、心配そうに話す彼に、嘘などつけない。
未来がある言い方など、出来はしないんだ。
「・・・・・・虹」
「・・・・・え?」
ポツリと言葉を漏らす。
顔を上げた彼は少し驚いた表情をしていて、昔は見れなかった表情だとまた心が痛んだ。
ぎゅっと唇をかみ締め、その先の言葉を言う。
彼は一言も漏らさぬよう耳を傾けていた。
「虹が見たい」
無理難問なことなんて分かっている。
しかし彼のことだからきっとなんとかしようと考えるのだろう。
部屋の中でも虹が見えるように、機械を作り出したりするのだろうか。
でもね、俺がこの言葉をいったのは、もうしばらく君に此処に来て欲しくないから。
こうやっていえば、君は少しの間作業と考える時間をとる。
一日もあれば十分。
そしたら別れのときを見せずにすむ。
「・・・虹か。虹ね・・・・・・」
「そう。空の下で、虹が見たい」
「・・・・空の!?・・・・・・あ、ごめん」
そういったとたん黙りこんでしまう。
空の下なんて医者が許すはずないと分かっているからだ。
俺にとって太陽の下に出ることは絶対にしてはいけないことなんだ。
病状を悪化させてしまうらしいから。
無理だと分かってていったこと。
でもこれでしばらく顔を合わせずにすむ。
ごめん、ごめんな。
困らせて。
でももう終わる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・帰る」
「え?」
いきなり立ち上がって部屋から出て行ってしまう。
もしかして怒らせた?
・・・・ううん、もしろこれでいいんだ。
怒らせてしまったのなら、都合がいい。
ただ、喧嘩したままというのは嫌だけど、死の瞬間をみせるよりはいい。
そうだよ、いいんだよこれで。
「・・・・でも、やっぱり悲しいな・・・・・・」
ぼそりと呟いた声は辺りに響き、静かに消えていった。
こんこん!
その日の夜、ふと窓が叩かれる音。
月の光なら大丈夫と思い、カーテンを開け確認する。
するとそこには彼が居て、かなり驚いた。
怒ってたはずだよな・・?
「ソウル、出て」
手招きされ、ここ三階なんですけど、なんていってみるけど、勿論通じない。
なかなか出てこない俺に痺れをきらしたのか、ぐいっと引っ張り、強引に外へ出した。
「ちょっ・・!」
「虹見せる」
そう一言だけいい、どんどんと木を降りていく。
そして病院の壁を超え、夜の街を走る。
たどり着いた先は公園だった。
すとんと椅子に腰を降ろさされ、そこで待ったろよといわれてしまう。
彼は二メートルほど離れたところに木に登ると、一瞬だからなと叫んだ。
何をするつもりなんだろうと闇夜を見つめれば、いきなり木から出てくる七色の光。
シューと火花を散らし、辺りを照らしつける。
(虹、だ)
闇夜に映し出されたそれは、まぎれもなく虹だった。
勿論水で出来たものではない。
虹を作るにはどうしても太陽が必要なのだ。
だから彼が作ったのは本物の虹じゃない。
けど、本物より綺麗だとおもった。
「・・・・・どうだ?見えたか?」
しばらくして光が消え、彼が降りてくる。
その笑顔を見て思わず涙がこぼれ、彼を困らせてしまった。
「どっ、どうした?やっぱ花火じゃ駄目か?」
「ちがっ・・・・・」
違うということが出来ず、ただただ涙があふれる。
嬉しかった。
無理だと分かりきっていたことなのに、こんな形で俺に虹を見せてくれて。
怒られるのは自分なのに、ただ喜ばそうとしてくれたその純粋な行為に。
会いたくなくて言った嘘なのに、それさえも叶えてくれて。
嬉しかった。
「・・・・・・あのさ。俺、こんな形でしか叶えられないけど、それでもなんとかしてみせるからさ。
だから、縛り付けているなんておもうなよ?俺、お前のこと好きでやっているんだ」
「・・・・知ってたのか?」
「・・うん、でも、何もいえねーじゃん。俺のためだからさ」
彼はそういって笑って、俺を抱きしめた。
大好き。この体温が。
大好き。この声が。
大好き。君の笑顔が。
・・・・・本当に、大好きだよ。
「・・・・・ソウル?」
ずるっと力が抜ける俺の体。
もう、駄目みたいだ。
やっぱり外に出るのはまずかったかな。
久しぶりに走ったし。
でも後悔はしていない。
全ては俺のため、君がしてくれたことなんだ。
だから最後に言わせて。
「大好きだよ、ハート」
そのまま目の前が真っ暗になり、君の笑顔はもう見えない。
声も聞こえない。
温かさも分からない。
ねぇ、君は今、泣いていますか・・・?
END
後書き
お題八発目です!
このお題シリーズ、お持ちかえり可能のフリー小説ですので!
お好きなのをどうぞ。
勿論全部でもいっ・・・・・・・・、こほん、失礼しました。
あ、このお題を持ち帰るときについての注意点なのですが、このお題はお題屋さんから借りたもの
なので、お題の二次配布はしないでね!勿論小説も!
そして自作発言禁止!
あと文だけ持ち帰ってね♪
ここに直接飛ぶようにしないでね♪
それでは、引き続きお題をお楽しみください。
*持ち帰る人は一言ください!
背景は「Photo by Natuyumeiro」からお借りしました。